わずか10センチほどのハゼ。
伊豆半島の南、稲取港を基地とする「山下丸」の定置網に入っていた。
図鑑などで見ると、ヒレを縁取る青色や体を貫く縦線の赤などが鮮やかで、もっと派手なイメージがあったが、この個体はまだ10センチと言うことで若干地味な印象を与えるが、「ニシキハゼ」の特徴である太く赤茶色をした縦線が鮮やかで、まさに「錦の御旗」を横にしたようなスタイルをしている。
これが倍くらいの大きさになってくると、色使いや顔つきまでも派手になり、まさに「ニシキハゼ」という名前に恥じない模様と色彩をアピールしてくるのだが、残念ながらこの個体は、まだ僅かにそのファッションセンスの萌芽を見出すことができるに過ぎない。
しかし伊豆の海ともなると「ニシキハゼ」自体はそれほど珍しくも無いのだが、定置網に「ハゼ」の仲間が入ることは比較的珍しく、小田原周辺の定置網でもほとんど見られない。私は市場で見たのは、初めてである。
それは「ハゼ」類の多くが比較的沿岸に生息し、深いところでも砂地の底に近いところでしか活動していないためと考えられる。また仲間は小型の物が多く、器用に腹びれを使って動くことから、定置網に入っても網の目をくぐり抜けていくこともあるかもしれない。
沿岸や港の小物釣りをする人間にとっては、身近な「ハゼ」であるが、魚市場や定置網に従事する人間にとっては意外にも縁遠い魚なのである。
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