それは、風の強い夜が
明けた朝のことだった。
相模湾を南から舐めるように
通り抜けた黒潮のうねりに乗って、
あの男はやってきた。
背中に彫られた唐獅子牡丹。
どこか憂いを含んだ斑模様の刺青。
まるでその身に抱える
哀しみを隠すように、
濁った海底を這い、
獲物も目撃者も残さず喰らい尽くす。

その名を「イタチザメ」。
男の中の男、
外道中の外道
まさに魚界の極道である。
数年前、
傷だらけの若造だったあの男が、
今回は2メートルを優に超える
巨体を引っ提げての帰還。
牙を研ぎ、世を睨み、
再びその姿を
我々の前に晒すことになったのだ。
今朝、小田原沿岸の刺し網に掛かったこの漢。
あまりの巨体に、
漁船は「こんなもん積めるかよ」と降参。

そこへ現れたのが、
二宮定置の捜査4課、通称「マル暴」
彼らは男の存在を聞きつけ、急行した。
まるで敵に塩を送るかのように、
彼の命を、否、魂を受け取って
港へと運び込んだのだ・・・
これは逮捕だったのか、
それとも最後の舞台を用意する為の
「仁義」だったのか?
漁船のクレーンに
吊られたその姿は、まさに圧巻。
伸びきった胴、黒く鋭い眼光、
鈍く光る肌は、
まるで夜の闇をたたえている。
近寄る者に威圧感を与え、
触れる者に迷いを与える。
かつて「食物連鎖の番外地」とまで
言われたその魚は、
今や「海の狂犬」として、
畏れられる存在へと変貌を遂げていた。
「イタチザメ」
その名を聞けば釣り人は背筋を伸ばし、
漁業者は眉をひそめる。
網は破られ、獲物は喰われ、
時に船さえ傾かせる。
だがそれでも、
どこか惹かれる“哀しき渡世”の匂い。

腹の中に何を抱えていたのか。
夢か、怒りか、ただの空腹か。
(実際はイシガキフグやらネズミフグ?)
そこから見えるのは
彼の過去か、罪か、
それとも海の真実か・・・?
まもなく彼は、最後の花道を迎える。
その身を晒すことで語られる、
壮絶な海の生き様。
今日、魚市場に現れたのは
ただのサメではない。
それは一匹の“侠(おとこ)”
まるで一遍の任侠映画を観た満足感が
そこにはあった・・・
ちなみにイタチを漢字で書くと
「鼬」
そう、ネズミが入ってますね🐭
2017年12月19日の
「イタチザメ」の記事はこちら
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